磁気媒体リーダー事件(H10.12.22 東京地裁 平成8年(ワ)22124)
磁気媒体リーダー事件(H10.12.22 東京地裁 平成8年(ワ)22124)
本件に係る実用新案登録第1802476号の請求の範囲の記載は、
「 A 磁気ヘッドを媒体に摺接走行させて情報の記録或いは再生を行う磁気媒体リーダーにおいて、
B 上記磁気ヘッドをレバーに回動自在に支持すると共に、
C 該レバーを前記媒体に沿って走行させる保持板に回動自在に支持することにより、
D 上記磁気ヘッドが上記媒体との摺接位置と上記媒体から離間した下降位置との間を移動可能とし、
E 上記磁気ヘッドと上記保持板との間に、
F(α) 上記磁気ヘッドが下降位置にあるときは上記磁気ヘッドの回動を規制し、
F(β) 上記磁気ヘッドが媒体との摺接位置にあるときは上記磁気ヘッドを回動自在とする回動規制手段を設けたことを特徴とする
G 磁気媒体リーダー」
である。
ここでは、構成要件Fに係る「上記磁気ヘッドが下降位置にあるときは上記磁気ヘッドの回動を規制し、」との記載の解釈が争点となった。
裁判所は、「構成要件Fに係る・・「上記磁気ヘッドが下降位置にあるときは上記磁気ヘッドの回動を規制し、」との記載は、「磁気ヘッドがホームポジション又はエンドポジションで停止しても磁気ヘッドが正常な姿勢でいるようにした」という本件考案の目的そのものを記載したものにすぎず、「回動規制手段」という抽象的な文言によって、本件考案の磁気媒体リーダーが果たすべき機能ないし作用効果のみを表現しているものであって、本件考案の目的及び効果を達成するために必要な具体的な構成を明らかにするものではないと認められる。 このように、実用新案登録請求の範囲に記載された考案の構成が機能的、抽象的な表現で記載されている場合において、当該機能ないし作用効果を果たし得る構成であればすべてその技術的範囲に含まれると解すると、明細書に開示されていない技術思想に属する構成までもが考案の技術的範囲に含まれ得ることとなり、出願人が考案した範囲を超えて実用新案権による保護を与える結果となりかねないが、このような結果が生ずることは、実用新案権に基づく考案者の独占権は当該考案を公衆に対して開示することの代償として与えられるという実用新案法の理念に反することになる。したがって、実用新案登録請求の範囲が右のような表現で記載されている場合には、その記載のみによって考案の技術的範囲を明らかにすることはできず、右記載に加えて明細書の考案の詳細な説明の記載を参酌し、そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該考案の技術的範囲を確定すべきものと解するのが相当である。ただし、このことは、考案の技術的範囲を明細書に記載された具体的な実施例に限定するものではなく、実施例としては記載されていなくても、明細書に開示された考案に関する記述の内容から当該考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が実施し得る構成であれば、その技術的範囲に含まれるものと解すべきである。 」
と判示した。 ここでは、次のような手順を踏んでいる。
①手順1:当該用語が機能的・抽象的か否か。
②手順2:機能的・抽象的である場合、詳細な説明に開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該考案の技術的範囲を確定(理由:開示されていない技術思想に属する構成が考案の技術的範囲に含まると、出願人が考案した範囲を超えて実用新案権による保護を与える結果となる→開示の代償としての保護という法の理念に反する)
③手順3:考案の技術的範囲の確定にあたっては、明細書に記載された具体的な実施例に限定するものではなく、開示された考案に関する記述の内容から「当業者」が実施し得る構成も含む。